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国同人雑誌協会「ニュースレター2025.5月」全国同人人雑誌評 - わだしんいちろう
同人雑誌の魅力とは?と問われれば、すべてが個性的で、似たような同人雑誌がほとんどないことだろう。そこには多種、多様な作品が掲載されている。昨今、エンタメ系に押されている商業文芸誌と違い、時代に流されず、かたくなまでに己の心情をつらぬいている。
ただ弱点は、横の連携がほとんどないことだ。発信力に乏しく、他誌についての情報が入ってきにくい。だから他誌を積極的に読む気にならないため、読者が限定されてしまう。かくいう私自身も、同人雑誌評を担当していなければそういう状態でいただろう。
今回、『文芸思潮』から9冊送られてきた。初めて知る同人誌もあれば、名前だけ知っていても読んだ経験がないものも数冊あった。
『朝 46号』(東京都)は小説の力作が並び、特集は「今度生まれ変わるとしたら……」。
「月の石」吉田 陣は「同棲するなら挨拶に来てほしいってお父さんが言ってるの」と恋人に言われて、現在33歳、無職のおれの人生が語られていく。大学卒業後テレビ番組制作会社で契約社員で働いていたが嫌気がさし、24歳で陸上自衛隊に入隊する。それらの体験がニヒルな目でこと細かく描かれ、読者を引き付けていく。結末で実際恋人の家を訪ねた場面が描かれてあり、短篇の構成としてもうまく展開されている。
「フィルター」美多来紀穂は、上質な甘さを感じさせるメルヘンタッチな作品だ。「進行性の眼病が発覚したのは小学5年生の時」だった「私」は、年齢とともに進行し、失明を覚悟して、心の準備をしていた。その「私」に突然ドナーが現れ、角膜手術をすることになった。手術後、はっきり見える世界に戸惑う。そしてドナーの角膜の記憶に導かれて、ドナーの母親と出会い、若くして亡くなったドナーのことを知るという物語だ。
「おばあちゃん永逝」松田祥子は、日記形式で「私」の祖母が亡くなる前後が描かれている。「テレアポの会社が潰れて、ダメもとでホテルのフロントの面接を受け」て入社した「私」。既婚者の「よっちゃん」と付き合っている。「五十三歳の男にとって、三十八歳の女はどれくらい価値のあるものだろうか。」と心配し、自信がない「私」の心理がコミカルな哀愁を誘う。
『飢餓祭 52号』(奈良県)は小説中心な同人誌。
「暗(くらがり)峠(とうげ)を越えて」森口順子は、高校時代の「新年恒例の耐寒訓練の日」の主人公「美和」の思い出から描かれていく。好きな男子を麻衣子にとられ、独身のまま33歳になって、偶然好きだった男子と出会う。麻衣子のことを聞くと、今は車椅子生活だという。麻衣子に会ってくれと頼まれ、しぶしぶ麻衣子を訪ねる、というような女の奇妙な友情物語。
「ジャイアンツ」奈良敦子は、「あゆ」は70代後半。国立大学の社会人受講生で大学生に交じり受講している。昼弁当を先生に持参したり、男子学生に菓子パンを「食べて!」と差し出したりしている。そして映画「ジャイアンツ」の感想が長々と語られる。リズミカルな文体はコミカルで、小気味よさがある。
『文芸中部 128号』(愛知県)小説作品を中心に随筆、詩がはさまれている。特集は、「私の一番好きな本」。
「幸儒(こうじゅ)の木」大西真紀は、不思議な世界を描いている。「わたし」は、二十代半ばで祖母の妹との二人暮らし。趣味と実益を兼ねて香水や練香を製作していた。身長一メートル十五センチの小人で、ずっと差別されてきた。ある日、資産家の令嬢の代理が訪ねてきて、研究室で香水を作ってほしいと誘われた。そこは英虞湾に浮かぶ幸儒島だった。そこにはいろいろな小人症の人たちが集められていた。「わたし」はその令嬢に恋をするが、令嬢は他の小人が好きで「あなたに興味を持つことはない。これからも」という……。
『ガランス 32号』(福岡県)ガランスとはフランス語であかね、あかね色という意味。六篇の小説が並ぶ。
「阿蘇を駆ける馬」野原水里は、絵画が好きな読者におすすめである。短大卒業後、絵を売る会社に入社した「わたし」は売り上げがなかなか上がらない。三年目にスーパーでリトグラフを売るという企画のアシスタントに指名された。そこに来た弱視の老婦人と会話して売ることができた。こうしたやりとりを通じてしっとりとした感動を醸し出している。
『照葉樹 二期 27号』(福岡県)小説。随筆、俳句、詩と多彩な作品が並ぶ。
「幸せのパズル3」水木 玲は、ポーチを拾って交番に届けると、今朝生き倒れた男のものだったと分かる。その男は「餓死を希望されて食事を摂られていません」ということだった。そこでおせっかいをして生きる意欲を取り戻させてやるという現代風おとぎ話。巧みな展開で読者を引きこんでいく。
『AMAZON 528号』(兵庫県)驚きの号数だが、一九六二年から年6回発行しているためだ。その功績が称えられ、2年前に第2回全国同人雑誌賞を受賞している。詩、小説、エッセイ等が並ぶ。例会通信には、合評録が載っている。
「後期高齢者がゆく(2)」豊澤 廣は、「呉竹光彦は、以前から精神科で軽いうつ病、および不安神経症と診断されている。」カウンセラーに「それでどう改善されたいのでしょう」と聞かれ「ズバリ、エッチしたい。私とできますか」と暴言を吐くが、公然と無視される。入院してからは看護師たちから「扱い難い患者」という悪評を得る。介護の裏面を描いていて面白く読んだ。
「西日本新聞」5月6日(火)朝刊「西日本文学展望」茶園梨加氏筆
題「昭和戦後期」
冒頭、有馬学さん著『日本の歴史第23巻 帝国の昭和』(講談社、2020年)について言及
木下恵美子さん「ブラックスワン」(「詩と眞實」910号、熊本市)、岩崎美枝子さん『清らかな川の町 花街の小さな女戦士」(福岡県人権研究所)「文芸福岡」・「リベラシオン」発表作品を含む
矢和田高彦さん「ホタル狩り」・米本智恵さん「猫にたい焼き」(ともに「文芸山口」380号、山口市)、宮川行志さん「婆ちゃん画家「シスコさん」」(「詩と眞實」910号)
「西日本新聞」5月6日(火)朝刊「西日本文学展望」茶園梨加氏筆
題「昭和戦後期」
冒頭、有馬学さん著『日本の歴史第23巻 帝国の昭和』(講談社、2020年)について言及
木下恵美子さん「ブラックスワン」(「詩と眞實」910号、熊本市)、岩崎美枝子さん『清らかな川の町 花街の小さな女戦士」(福岡県人権研究所)「文芸福岡」・「リベラシオン」発表作品を含む
矢和田高彦さん「ホタル狩り」・米本智恵さん「猫にたい焼き」(ともに「文芸山口」380号、山口市)、宮川行志さん「婆ちゃん画家「シスコさん」」(「詩と眞實」910号)
「西日本新聞」4月10日(木)朝刊「西日本文学展望」茶園梨加氏筆
題「持ち味」
立石富生さん「終の棲家」(「火山地帯」213号、鹿児島県鹿屋市)、小河原範夫さん「移住」(「ガランス」32号、福岡市)
多胡吉郎さん「ピアニスト・ケン 謝肉祭(カーニヴァル)、仮面が泣いたモーツァルト」、鈴木比嵯子さん「初盆」(ガランス」32号)
「ガランス」は田部光子さん(筆名・ミツコ田部さん)の追悼号。「『死海文書』深紅のエルサレム」を再掲。表紙は田部さん作「林檎の表象(万有引力)」
にいな2025/04/02 (Wed)
令和7年3月30日(日曜日)の長崎新聞に、「長崎県の同人誌」が掲載されました。筆者は小出久記者。取り上げられている同人誌は、9冊。「ら・めえる」89号では、小説「告知」(熊高慧)は、がん告知を巡る問題を取り上げる。小説「天正遣欧少年使節・第2回」(吉田秀夫)は、喜望峰で暴風に翻弄される場面を描く。「長崎の文学碑を訪ねて」(新名規明)は向井去来の5基の句碑を紹介する。詩と批評「あるるかん」は高原かず子の詩と田中俊廣のエッセーを取り上げる。「九州文學」587号では内田ゆうこの連載小説の開始を紹介している。
「西日本新聞」3月6日(木)朝刊「西日本文学展望」茶園梨加氏筆
題「殺生」
『九州・沖縄 同人誌傑作選』(花書院)
瀬崎峰永さん「僕がミミズになるまで」(「海峡派」162号、北九州市)、高岡啓次郎さん「ある殺意」(「海」100号、福岡市)
植木英貴さん「サーカスの唄」(「詩と眞實」908号、熊本市)、矢和田高彦さん「遅ればせながら」(「文芸山口」379号、山口市)、「絵合せ」10号(福岡市)より野沢薫子さん「ムジナの里」
冒頭に紹介された『九州・沖縄 同人誌傑作選』について転載します。
『九州・沖縄 同人誌傑作選』(花書院)が刊行された。福岡市の出版社の仲西佳文さんによる企画で、ウェブサイト「文芸同人誌案内」開設者の樋脇由利子さんの協力による。「其の一」「其の二」の2巻に、福岡から沖縄の同人誌作品15作を収める。仲西さんの言葉(「はしがき」)にあるように、同人誌は取り扱う書店が少ないうえ、さらに「昨今の書店の急激な減少でなかなか同人誌を入手するのはのは困難」な状況にある。同人誌間のさらなる交流を目的とした書籍の刊行を心から喜びたい。次の企画も考えられているとのこと。心待ちにしたい。
「西日本新聞」2月4日(火)朝刊「西日本文学展望」茶園梨加氏筆
題「意外な展開」
鈴木比嵯子さん『霧の扉』(梓書院、2024年11月、初出「ガランス」)、鳥海美幸さん「執行ボタン-20XX年-」(「龍舌蘭」213号、宮崎市)
杉尾周美さん「ぎょう鉄」、仁志幸さん「吉都線」(共に「龍舌蘭」213号)、出町子さん「ドアを開けて」(「詩と眞實」907号、熊本市)、古岡孝信さん「AI+MRI=NSK」(「二十一せいき」106号)
「西日本新聞」1月10日(金)朝刊「西日本文学展望」茶園梨加氏筆
題「地域に生きる」
出水沢藍子さん「河口周辺」(「小説春秋」35号、鹿屋市)、浜崎勢津子さん「熊杖の里」(「文芸山口」378号、山口市)
齊藤きみ子さん「マミーズ・ヒストリー」(「小説春秋」35号)、木島丈雄さん「現場の人びと」(「季刊午前」64号、福岡市)、下村幸生さん「鹿男」(「宇佐文学」75号、大分県宇佐市)