茶話歴談
第4号
歴史・時代小説アンソロジーの雑誌である。すでに千部を超えた発行実績があるというから、実に素晴らしい。いずれも、文章が軽快でスピード感がある。読者を楽しませようという精神が根底にある。コロナ禍で、文学フリーマーケットで売るのをあきらめざるを得ないのが、残念だ。現代は、職業作家が時代小説ジャンルに切り替えている。複雑化した現代社会にでは、説明が難しい。しかし、時代物は設定が、わかりやすい。比較的自由な表現が可能なのが理由であろう。作品の出だしを、イントロ文として紹介する。純文学だと思って作文しか書かない人に意味不明でしょうが、参考にしてくれればなあ、という想い。
【「かぶき、踊る」天河発】
―少女が出会った舞蹄への導き手。―とあるが、短い話のなかに、お国かぶきの精神が、江戸時代から現代までにつながっていることを実感させる。
☆イントロ文=目を奪われる。心躍る。/その意味を少女はこの日理解した。
【『建久十年の万馬券』黒嵜資子】
-嫌倉の武人たちが人馬一体となり最速を競う。(ユーモアに満ちた文章力で、読者の心をくすぐる。)
☆イントロ文=武士たるもの、鞍上死するは本懐なりーーそういってはばからかった御家人たちが、みな一斉に馬の背からおりた。
【「覇道を絶つ者」真弓創】
―信長の後継者・織田信忠が目指した天下の形。
☆イントロ文=「松永久秀、謀反の由」。/安土城の軍議の間に緊張が走った。…
【「忍冬」丹羽志朗】
―殺しを探索する八丁堀同心を背後から助ける謎めいた怪人の暗躍。
☆イントロ文=不忍池の淵に化け物が出るという。
【「鬼無しの話」都賀久武】
―下人の息子が天狗に出会い非情の世界に身を投じる。
☆イントロ文=故郷は川のそばで柿木が多い里だった。
【「家康から信長への貢物」山岡優作】
―家康に信長を超える決意をさせた貢物の正体。
☆イントロ文=天守閣の縦連子窓の外を見れば空一面を雲が多い、梅雨入りを知らせるかのように五月雨が……―
【「哀しき窮鼠の反撃作戦」霧山文三郎】
-四條畷の戦いを立案した軍師親房の悲しみと後悔を描く。
☆イントロ文=大勢の登場人物紹介がある。それからの物語。北畠親房は気が昂ぶり、なかなか眠れずにいた。
【「尼のくノ一」朝倉昴】
-満徳寺の尼として修行をする早尾に新たな使命が課せられる。
☆イントロ文=満徳寺の境内には尼僧たちの経を読む声が響いていた。
【「与兵衛寿司」有汐明正】
-寿司の革命、握り寿司の誕生にまつわる話。
イントロ文=『東海道四谷怪談』が江戸っ子たちを昂奮させ、巷の噂を独り占めしてから五か月ほど経った。
発行所=〒573-0087大阪府枚方市香里園山之手町12-29、澤田方、朝倉昴。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。《文芸同志会通信2022年1月 30日》
【「かぶき、踊る」天河発】
出雲の阿国は女性なのに男性ばかりが演じる歌舞伎の元祖とは何故だろう、と思っていました。テレビで特集されたのを観て納得。当方の記憶違いも混じっているかもしれませんが、おおよその流れは次のようでした。
出雲の阿国は若い女の子で、踊りも歌も人を魅了するものがあり評判になりました。今でいうAKBとかです。しかしヒトは年を取る。若さだけで評判を取る年を過ぎた阿国は男装して派手な舞台を作ります。今の宝塚です。これが大ヒット。真似をした芝居小屋があちこちにたちます。阿国の人目を引くファッションは人びとにもて囃され、旗本の次男なんかが粋がって真似をして「かぶき(傾き)者」と呼ばれました。そのうち男性ばかりで歌い踊り、芝居をする歌舞伎が始まりましたとさ。
この作品は阿国に魅了された見習い遊女の雪が阿国に出会い、やがて舞台に立つまでの物語です。遊郭とかぶき踊りの関係など、当時の風俗が描かれています。テレビも映画もない時代、若い女の子にとってナマで観る阿国の舞台は夢の世界だったことでしょう。
byひわき2022.03.08
第3号
関西の歴史小説の創作者たちが執筆した、十編の歴史・時代小説集。この前の第2号を送付していただいたが、どういう風に紹介しようか、思うところあって、別扱いになって、取り置きしたままになってしまっていた。そこで、今回の3号の紹介に、物語の出だしの部分だけを、写しておきました。ほとんどが、場面から始まっています。現代は、物語化で情報が伝わる時代です。おおいに参考にして欲しいものです。
【「天狗斬りの乙女」朝倉創】柳生宗厳から岩を両断する秘剣を学ぶ少.女、明音の仇討ちの顛末。
~~まだ紅葉もはじまってないのに、天乃石立神社にはすでに冷気が漂っている。山深くに作られ、このひと気のない神社の境内で一人稽古を行うのが柳生宗厳の日課だった。~~
【「時廻事―I will Kill you, must go on」黒嵜】幾度も同じ時を繰り返し朋友を殺し続ける江間義時の受難。
~~二俣川の河原は遠巻きな蝉の声に包まれていた。~~
【「厩戸皇子の遺志を継ぐ者たち」有汐明正】塩厩戸皇子の孫を引き取り、蘇我入鹿に仕えた忍びの受難を描く。
~~吾は語部、名は稗田阿礼という。28歳のとき天武天皇により、皇家の歴史を暗唱することを命じられた~~
【「老将が夢」都賀久武】雪見酒の最中、かつて駆けた戦場に思いを馳せる。
~~春だというのに館の塀越しに見える信州の山々にはまだ雪が残って見えた。老将は手酌で時期遅れの雪見酒をすすりながらかつての戦いを思い出す。~~
【「浮き草の流れ行く如く」霧山文三郎】 南北朝の争いに翻弄され、若き命を散らす歌人の親王を描いた。
~~将軍足利尊氏は、執事の高師直を伴い、しかめ面をして無言のまま、長い廊下を家臣を待たせる書院へと歩いて行く。~~
【「青嵐早春賦~新選組を生きるー」丹羽志朗】幕末動乱を全力疾走で生きた若者、天の育弄と別れ。
~~遅咲きの桜も終わり、遠くに望む野山に青葉若葉が萌出る頃である。~~
【「謙信、心ときめき」山岡優作】人の情欲を捨て、軍神たらんとした男の葛藤劇。
~~天文10年(1951年)の冬。落ち葉が舞い散り乾燥した冷たい風が吹きすさぶ曹洞宗林泉寺の境内。~~
【「蒼弩に挑む」天河発】日本で初めて空を飛んだとされる「鳥人」浮出幸吉の生涯。
~~初老の男が一人、丘の上に立っていた。向い風に煽られながら、晴れ渡った青空を眺めている。~~
【「ヒール役はお好き?」まつじゅん】 忠臣蔵のヒール役・吉良上野介を主役にした作品を紹介するコラム。
【「鬼の道」朝倉昴】武田家の軍師・山本勘助の執念の奇策が川中島に展開される。
~~こほっ、こほっ。咳とともに御料人様の口もとが、朱に染まった。~~
発行所=〒573-0087大阪府枚方市香里園山之手町13-29、澤田総方、朝倉昴。茶話歴談編集部。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。《文芸同志会通信2021年1月 2日》