季刊午前
第58号
【「青いオーバーコート」潮田征一郎】
定時制高校の同級生、U君との交流を描いています。卒業後U君は消息不明になったりして音信不通の期間もあり、再会後は4年に1度あうくらいです。随筆のような1編ですが、小説にしようというあざとさが感じられず自然に時代やU君の人となりが伝わってきます。ふたりの結びつきも経緯からして納得ゆくものです。普段は意識することもないけれど、こんな結びつきが私にもあるなあ、と感じさせる作品です。
【「手袋とサボテン」西田宣子】
主人公の若い女性は「揺れ」の感覚に悩まされ、舟やバスに乗れません。「揺れる感覚を体が覚えている。」で始まり、印象的で説得力ある幼児体験が語られます。両親を亡くした主人公は祖母や叔母の家で育てられます。彼女の繊細な感覚や周囲の人たちのやさしさが読み取れて、穏やかな気持ちになりました。随所に出て来る確かな文章表現の技かなと思いました。
byひわき2020.04.21