飢餓祭
Vol.45
【「ピュセルによろしく」須藤薫子】
ラ・ピュセルことジャンヌ・ダルクの物語です。といっても、彼女の勇ましい闘い振りや功績が描かれているわけではありません。
ジャンヌとともに闘ったフランス側の準騎士がジャンヌの父親を訪ねる場面から始まります。お金もなく着る物も用をなさないほどに傷んでいる。そんな男が彷徨い歩く描写が、圧倒的迫力で書かれています。深い絶望が伝わってきます。男が探し当てた父親は後悔と絶望で精神に異常を来しています。父親は男に娘ピュセルの思い出話をします。家族のこと、生まれた時のこと、そして成長してゆくピュセルのこと。ひとりの女の子が生き生きと描かれています。文体の完成度が高く、時代や土地のイメージが伝わってきます。ジャンヌ・ダルクという類い希な女性の成長がなんともかわらしく、気持ちを弾ませながら読みました。
byひわき