柘榴

第20号
【「消せない」木戸博子】
 女性の性意識とその体験を、良かれ悪しかれ体験として、心に刻まれた記憶を語る。女性の性に関する感覚と意識の独自性については、千人千様の様相がある。なにがあってもおかしくない世界である。そのなかで、主人公の私は、自意識があって文学的センスのある男性との接触望んでいたが、感覚の違いでが、関係のすれ違いを産む事例を語る。終章の一行「観念的で潔癖な男友達ともあれきりになった」とある。おそらく心の奥では、語り手は、現在も当時の感覚をもっていると、推察できる。
 清楚な筆致で女性の心理が描かれていて、大変面白く読んだ。しかし、良く考えると、同人誌作品には、段取りが悪い下手な文章で、語るべきことが何であるか不明な作品が多く、推理を交えて読まないと、意味がとれないことが多い。それに、慣れた感覚で本作を読んだことで、大変にすっきりとした佳作に思えた可能性もある。ここでは精神のみに絞ることで、芸術性の維持がなされている。現代では、小説芸術についてアンドレ・ブルトンのように、「劣等なジャンル」とされるほどの俗悪な部分を持つことを考えると、肉欲的な部分の扱いも重要なのかも知れない。が、それは文章芸術とし大変に難関であることは否定できない。
【「時軸あるいはルースキー・イズィーク」篠田賢治】
 作者は、ロシア語が堪能で、ドストエフスキーのロシア語版を収集していることが記されている。図書館の運営の民営化による通俗性の傾向は、東京24区でも影響があって、似ているところが興味深い。伝統的な名作や全集を片端から排除して、新本に切り替えている。ここでも図書館は大衆性のある本を揃えているが、少数者の読者しかいない本は、購入整備しない傾向についての事例を述べる。その他、自からの読書趣味や、ロシアの出版事情、合田君と話の通じる男との交流など、小説的にも大変面白い。ある意味で、このような知見を活かした作品は、文学愛好者の支持するところだと思う。
 その他、【「星置き」杉山久子ー石榴俳句館】、【「リフレインする泉」吉村鞠子】、【「映画に誘われて」オガワナオミ】などがある。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。