筑紫山脈

40号
【「錆びた槍」井上淳子】
ひと昔前に「遺産相続」といえば、親の面倒を見ることもなく離れて住んでいた長男がしゃしゃり出て取り仕切り、「跡継ぎ」の名の下に全てを自分のものにする。次男と心根の良い嫁は親の面倒を見てきたにもかかわらず何ももらえない。というパターンが多かったように思います。遺産の分捕り合戦によって生じる悲喜交々みたいな。ところが世の中は変わってしまったんですね。今は、思いがけず遺産相続することになったけれど「どうしよう」、と戸惑う物語が語られます。
伯父の一周忌に出席した主人公は先祖供養と墓守を頼まれます。主人公の父親は58歳で亡くなっています。その後、祖父母、伯父が亡くなり、父の生家には年老いた伯母ひとりが残っています。伯母の娘たちは結婚し、離れた場所に住んでいます。この家の姓を名乗っているのは伯母と主人公一家だけです。子供の数が少なくなった現在は、このような状況も多いのでしょう。一族の状況を長押に掛かった錆びた槍が象徴しています。文章が整っていて気持ちよく読みました。その土地や風景の描写が作者独自の表現でうつくしいです。
byひわき 2021.07.28