アピ

第12号
 本誌には3・11の福島原発事故から10年の経過を、被災者の立場で、大友章生氏が「あれから10年」というタイトルで、レポートを記している。そこで、暮らしのノートITOのサイトで、当事者目線の記録を詳細に転載してみたい。《参照:大友章生「あれから10年=被災地の現状と課題」(1)》記録は、実感を伴うものなので、味わってみたい。また、被災地域である茨城県住民として、田中修氏が、「東電福島第一発電所事故から10年」を記している。これも、現場から観察した事実の認定として、折を見て詳細を掲載したい。その方法を考量中である。物事のたいていは、10年ひと昔といって、それは過去の情報になる。事実、原発の存在も、一般人意識で、またかという情報として受け止めがちだが、恐ろしいことに、放射性物質の存在は、10年前と同じである。
【「死友」西田信博】
 西暦95年頃の中国の話。巨卿と元伯と仲山の三人の交流の深さを描いたものらしい。きちんと記された歴史物語らしい。男の付き合い方の姿が見える。自分は中国史に暗いので、この人物交流が、歴史的にどのような意味があったのか、わからない。
【「夕映え」さら みずえ】
 年月を経て、多感な若き日を回顧しながら、再会を楽しむ友達。落ち着いた雰囲気の作品。物語的な作品にするならば、最終の場面を最初に持ってくると、語り方に熱が入るのではと思う。
【「異風の男(前編)」宇高光夫】
 なかなか活発な若者の物語。これから風変りな人間像が描かれるのか。
【「オレンジ色の空と虹(後編)」雲谷斎】
 青春にもいろいろな姿がある。ハッピーエンドでよかった。
【「七十歳、2020年を想う」宇田三男】
 還暦後の人生を、海外旅行をしまくり、その後、田中修氏の勧めで、県内の原発稼働問題の署名活動をする。コロナ禍の記録や、スポーツの話題など、記録する材料には、事欠かかない現代が語られている。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。
《文芸同志会通信・2021年12月14日》

第11号
【「ヤッテラレナイョー」原島留男】
 社会評論として非常に面白く、ウイットに富んで、優れて今の世相を反映しているので、作者と編集長の許諾を得てその一部を転載させていただいた。《参照:暮らしのノートITO評論「【「ヤッテラレナイョー」原島留男】」
 歌手・山崎ていじの唄に「浜防風」というのがあるそうで、その中にこのフレーズがあるそうだ。面白い話だ。自分も、この部分を何かのコピーライトに使いたくなる話である。
【小品三編―「お祝い」友修二】
 おばあちゃんが、77歳になったので、家族がお祝いをする。そのとき、おばあちゃんが、ダジャレを乱発して、皆を面白せる。気持ちほっこり話である。
【同-「いつか来た道」友修二】
 杉田薫は、自分の身近なことにしか興味を持たず、生活を送っている。テレビニュースで憲法論議をしていても、気にしない。会社の同僚が憲法と戦争の話をしても興味をっ持たない。パチンコにうつつを抜かす。するとある日、郵便が来る。徴兵制による兵役召集であった。――SF風であるが、政治に関心がなくとも、それの無関係ではいられない、という話。
【同「サクラソウ」友修二】
 定年退職し、妻と離婚している川島健二は、毎日が日曜日の生活になじめずにいる。家を整理していたら、サクラソウの模様のハンカチを見つける。そこから、まだ、会社員になりたての美枝子との交際がった思い出がよみがえる。彼女が政治に関心があって、日米安保反対の騒動の時代のことが語られる。あの時代があって、今があるのは、どういうことか、考えるヒントを提供するが、作者の平和に対する意志が直接に反映されているようではないのが、惜しい。
【「川の向こうに」西田信博】
 時代小説で、佐吉は大森の六郷川(多摩川の下流域)の川崎への渡し船の船頭をしている。過去にいわくがあり、それをそれとなく隠している。そこ土地のお初という年増と良い仲で、やがては夫婦になろうかという間柄である。そこで、起きた出来事を丹念に描く。色ごとの場面もたっぷり挟んで、読者を退屈させない工夫もある。六郷川周辺の時代考証もしっかりしていて、本格的な大衆小説的内容。だが、表現が純文学的で、丁寧な筋運びで、スピード感に欠ける。この地域の地道で忍耐強い努力をする人達の風土の反映であろう。この丁寧さを、文学的に深める方向にいけば、さらに完成度が高まったのかも知れない。
【「花野」さらみずえ】
 炭鉱労働者から、北海道の十勝に来て農業を営む康治が70を過ぎて、娘三人に後を継がせた話である。北海道農業の実態をみっちり調べて書きこんでいるその努力に感心した。
【「輝きの夏」宇高光夫】
 自らの人生を、三島由紀夫の作品の関わり合いついて掘り起こし、ついでに三島作品の粗筋を入れるなど、自伝に三島のデーターを絡み合わせた、ロマンてき作品。企画小説として面白い試みである。
【「私と歌謡曲」飛田俊介】
 以下のようなタイトルが記されている。「渡辺真知子コンサート」ひたちなか公演――「BS日本の歌」水戸公開録画」(私の独り言)―-思い出①過去の栄光よ永遠なれ――「男演歌祭り」水戸公演―①千昌夫、②大川栄策―思い出②堀江君と「柳瀬ブルース」――「夢コンサート」水戸公演――思い出③ミっちゃん、シゲちゃん、マサボ君――「ロックフェス」ひたちなかーー思い出④歌謡兄弟―展さんと努さんーー夢スター歌謡祭「春組対秋組 歌合戦」水戸公演――おわりにーーとなる。歌謡ファン心理との歌手への印象記として、同好の人にはお勧めの作品である。
 著者はよくぞ、応募し通ったものである。他愛もない世間話のつもりで読み始めたら、ポップスや演歌歌手へのファン意識や世相の評論になっている。こういう記録は貴重である。自分は、コロムビアの団塊の世代向けのオーディオ商品のコピーライトと、PR誌の編集をしていたので、クイズの景品にヒデとロザンナのレコードを出したら、応募はがきが山ほど来た。その人気に驚いた経験がある。仕事で、歌手にインタビューするとなぜか、サイン色紙をくれる。たくさんあったのだが、いつの間にかなくなっている。家族が誰かに上げたりしたのであろう。
【「ある小学性の満州からの帰還と戦後」取材・三浦克洋】
 つくば市並木で「並木そば」営んでいた平倉浩一氏の、波乱に満ちた人生を記したインタビュー記事である。平倉さんは、昭和13年に満州で生まれた。父親が国鉄職員であったので、満州鉄道に配属されたためという。敗戦後の、満州からの引き上げは、作詞家のなかにし礼が、国から棄民された、と語っていたが、一般人の苦節を記録にする有意義な試みである。自分は、かねてから街中ジャーナリズムを同人誌に掲載することを推奨してきたが、その実際を知って大いに支持するものである。写真や満州の地図も掲載されているが、まさに日本の帝国主義領域の大きさと、国内外にどれだけの犠牲者がいたのかを思い、感慨にふけるものがある。
発行所=〒309-1722茨城県笠間市平町1884-190、田中方、「文学を愛する会」。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。《文芸同志会通信2021年1月14日》

第10号
【「遥かな想い(後篇)」宇高光夫】
 登山趣味色の強い山岳ロマン小説。美里という女性の人生の歩みを山登りを軸に置いて、男女と山岳ロマンを合致させる。美里は、愛した男を失うが、新しい人生への道筋を示して終わる。作者の明確な設計が効果を上げているといえるであろう。参考になる手法でもある。
【「白い夏」西田信博】
 老いた父親がシベリア出兵させられた体験を詳しく語る。負傷し、敗戦になってロシアでの抑留生活の辛い思い出をリアルに描く。シベリアでの日本兵の過酷な体験は、他の同人誌でも小説の題材にされているので、それらを読んでいる自分には、大変参考になっている。自分は、こうした有意義な資料をいかして、現代のロシアを研究し世界情勢のなかで、ロシアの特性を考えることが必要と考える。ロシア人は組織人となると人が変わるのか。人的迫害の残虐性はプーチン大統領の手法においても際立っている。チェチェン人民の弾圧の残虐性もあり、モスクワで起きたアパートテロ事件は、それで政権を強化したプーチンの謀略説も出ている。目下の米国のイラン攻撃を受けて、ロシアはイランをどう支援するのか。(米国は10年に一度戦争しないと、やっていけない国である、と自分は指摘してきた)。考えさせる作品であった。プーチンもトランプもキムもアラビアの国王も立派な暗殺者たちである。そこへいくと安倍首相などは、可愛いものなのか。
【「岸辺の風景(前編)」灘洋子】
 ここでの岸辺というのは、人が死んだ後に、三途の川を渡るという伝説的イメージをもとに、その渡し番の話である。人の死後の世界を舞台にするまで、想像力を伸ばしてきたのは、大変面白い。
【「自費出版その後―北海道―」田中修】
 作者は、ペンネーム「友修二」で「相馬藩家臣大友氏823年の過去と現在」-キリシタン大名大友宗麟との繋がり、そして今を生きるー」(友修二・著)を自費出版した。自分も読ませてもらったが、大友家が、秀吉が計画した朝鮮出兵を命じられたが、当時の大名たちがいやいやながら、戦いに行ったことを推量させる資料もあり、特に大友家はよほど気乗りがしなかったのか、改易という処罰を受けているところなど、興味深い。その後、相馬に行き、子孫が相馬市で原発事故被害にあうという歴史までわかる。その先祖の地、北海道の大友家系の大友章生夫妻と共に、道内ゆかりの地を探訪する。
発行所=〒309-1722茨城県笠間市平町1884-190、田中方、「文学を愛する会」。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。《文芸同志会通信2020.01.06》